前回の記事で真空ポンプの能力低下の現象について紹介したが、今回はその際のトラブル検討について紹介する。
なぜなぜ分析は非常に難しい。一生懸命行っても、真因にたどり着かず労力を無駄にすることもあるだろう。
また労力をかけ真因を突き止めた割には対策を打てず、現場の問題を解決することが出来ず徒労感だけが募っていくこともあるだろう。
労力ばかりかかる原因の一つは、「発生源」つまりトラブルが発生した真因の解決にこだわってしまう為だと管理人は考えている。
管理人が担当している研修生も、「発生源」に対してのなぜなぜ分析に固執し、検討にかなりの時間を要していた。理系、技術者として物事の起こりに目が行くのはよくわかるが、時間は有限である。
これは言い過ぎだが、技術スタッフの使命はオペレーターの負荷削減であり、「発生源」の解決ではないと考えている。
もちろん、トラブルの根本的原因「発生源」を解決出来ればそのトラブルは再発することもなく大きな負荷低減が望める。如何せん工場建設から何十年と残っているトラブルの真因は簡単に解決できるとは思えない。
技術スタッフは、トラブルのあらすじを素早くとらえ、検討時間と削減できる作業負荷(工数)のバランスを考慮して、検討を行う必要がある。
そのためにはまず、発生した問題事象を時系列で分類することから始める。
目次
問題事象を時系列で分類する
なぜなぜ分析を開始する時は、見えやすい「発生源」の問題事象から取り組みがちだが、一旦立ち止まろう。
先ほどから「発生源」という言葉使用しているが発生したトラブルにおける問題事象を時系列順で分類すると、「発生源」→「予防措置」→「事後措置」に分類する事が出来ると考えている。
それぞれを前回取り上げた真空ポンプの故障を例題にして説明する。
簡単に説明すると、タンクを減圧するために真空ポンプを稼働したが、粉体原料を吸い上げる真空ポンプのサクションフィルターが閉塞し真空ポンプが停止したといった現象である。
トラブルとは「真空ポンプが停止」した事で、問題事象とは真空ポンプ停止の「起点となった事象や作業」や「トラブルよって発生した作業」の事と定義させて頂く。
「発生源」とは文字通り、トラブルが発生した原因である。例題では真空ポンプが粉体原料を吸い上げてしまった原因のことである。
「予防措置」とは行っていればトラブルを予防できた作業のことである。この場合、サクションストレーナーが閉塞気味であることを検知できていればトラブルがおこる事はなかった。
「事後措置」とはトラブルが発生した後に行った作業の事である。真空ポンプが停止した際には、サクションストレーナを清掃し、再立ち上げをおこない、余分な作業を負荷を発生させている。
上記の様に、一つのトラブルをとっても複数の問題事象を抽出することが出来る。
読者の方もよく「発生源」に注力して検討されている事が多いのではないだろうか。しかし、それだけではもったいないので是非「予防措置」「事後措置」にも着目し、検討において最大効果を発揮してほしい。
「事後措置」から検討を始めてみる
「発生源」のなぜなぜ分析が行き詰った際には、「事後措置」についてなぜなぜ分析を行ってみるとよいだろう。
「事後措置」はトラブルが起きた後の対応の為、比較的負荷の高い作業になりがちである。
その為、負荷の高い「事後措置」に対してメスを入れる事が負荷低減の近道になる。オペレーターが行う負荷の高い作業を簡便化する事に重きを置いて検討していこう。
真空ポンプの例では、「事後措置」の問題事象としては、以下が問題事象として挙げられる。
フランジを割ってサクションストレーナーを取り出し、金ブラシで清掃した
閉塞したサクションストレーナを清掃したことを「事後措置」の問題事象として捉え、清掃作業を簡便化する事を目的に検討を行う。
発生源とは異なりなぜなぜ分析を細かく行う必要が少ないが、作業を軽減する方法を考えるセンスと情報が必要である。
例題の場合、以下の事が思いつく。
・洗浄治具を使いやすいものにする
・手回し洗浄機を設置する
・バイパスラインを設置し真空ポンプを停止する事なく運転できるようにする等が思いつく。
上記の様に「事後措置」は投資が必要な場合も多いが、現場の備品の使いこなしで負荷を低減できることも多い。思いつきを試してみて、効果があれば御の字なので、いろいろ試してみよう。
また投資が必要な場合はコストとメリットを明らかにして、提案してみよう。
「予防措置」を講じれば、発生頻度が低下する
「事後措置」の対策が完了したら、次は「予防措置」の検討に取り組もう。
「予防措置」とはトラブルが起きる前にオペレーターが事前に行っていた作業であり、作業負荷は低いが巡回などで行う為、作業頻度が高くなる傾向がある。
その為、1回の作業負荷低減効果は少ないように見えるが、年換算した場合の負荷低減とまたトラブルが起こらないことによる「事後措置」の低減も含めれば、コストパフォーマンスの高い検討になりやすい。
今回の真空ポンプの例では、以下の事が問題事象として抽出することが出来る。
・ポンプがトリップする前にサクションストレーナーの閉塞を検知できなかった
・サクションストレーナーの清掃頻度が決定されていなかった
・決めていた清掃頻度を守っていなかった
このように「予防措置」で抽出される問題事象の多くはルールが決められていない、守らていない事に由来する事が多く、ヒューマンエラーによるものが多く上がるだろう。
対策として以下が思いつく。
・計器を設置する
・清掃頻度を決定する
・頻度を周知する。アラームでお知らせする。
「~していない」に対して「~する」は対策としてはいまいちの為一捻り欲しいが、決まっていない物は決めないといけないので愚直に進めていくしかない。
「予防措置」の検討で必要なのは、なぜこのトラブルが発生させてしまったのか(未然に防ぐことはできなかったのか)、頻度がなぜ増加したのかに観点で検討していくことが重要である。
「発生源」の検討は情報量とセンス
ここで難題の「発生源」の検討方法を考えていく。
まず初めに行うべきは、現象を時系列順に並べていくことである。続いて現場操作のヒアリングを行い現場操作の現象を整理・分解していく。
この時はあらかじめ作業手順書を確認し、手順との差異、なぜその操作を加えて行っているかヒアリングしながら聞けるとなおよい。
今回の真空ポンプ停止ではサクションストレーナまで粉体原料を吸い込んだことが「発生源」の為、それついてなぜなぜ分析を行っていくことになる。
しかし真空ポンプのトラブルは簡単な例だが、複数の原因によって発生しているトラブルも多くそういった場合には収集した情報から「発生源」となる問題事象を抽出する必要がある。
トラブルの「発生源」となった複数の問題事象はヒアリングし時系列順に並べた現象を眺め、原理原則から差異がないかを確かめながらから抽出・羅列していく。
この問題を抽出する能力は、気づき能力は日頃からの3Sやビフォーアフター活動や現場巡回等で磨いていくしかない。問題事象を抽出できてたら、その問題事象についてなぜなぜを行っていくと、いずれ真因にたどり着くことが出来る。
このなぜなぜを進める際には、原理原則に基づいて検討を行うことが重要である。発生源の検討は経験と知識がものをいうので、ここでも経験を積んでいくしかない。
経験を積んでいくしかないとは言ったが、コツはあるのでなぜなぜ分析の進め方・コツについては別記事で紹介する(と思う)
今回は、トラブル検討を進めるにあたって、問題事象を「発生源」「予防措置」「事後措置」に分類して検討する事を紹介した。是非、今後のトラブル検討に活用してほしい。
以上、ご安全に